まねをする天才 モーツァルト

 木原武一『天才の勉強術』(新潮社)から紹介します。

 

 学校の授業や本を読むことだけが勉強ではありません。何か新しいことを知ったり、新しい能力を身につけたりすること、そのことが学ぶことであり、人間が味わう感動や楽しみの大半は、こういうところから生まれてきます。この学ぶ楽しさをよく知っているのが「天才」と呼ばれる人々です。

 ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは、3歳でピアノを弾き始め、5歳で作曲を始め、12歳で最初のオペラを作曲するという「神童」ぶりを発揮しました。モーツァルトは「真似」の天才とも言われています。彼の「レクイエム」は、ミヒャエル・ハイドンの「レクイエム」とよく似ています。モーツァルトの父はハイドンの才能を高く評価し、息子に彼の作品を模範としてよく練習させていました。モーツァルトがハイドンから「盗作」あるいは「借用」したことは事実と言っていいと思います。さらに他の作曲家からも借用・模倣を行っていることがわかっています。

 肝心なのは、模倣の成果です。彼は他人の音楽を模倣しながら、はるかにそれを越えて、独特の音楽を創り上げています。この能力こそが、モーツァルトの「天才」なのです。

 ではモーツァルトは、どのようにして真似る才能を得たのでしょうか。彼の父は、子どものための音楽教育プログラムをつくり、実行しています。彼が生まれた頃には、すでに姉の音楽教育が始められていて、父は弟子に教えたり、自分自身の練習もするため、家には一日中音楽が鳴り響いていました。モーツァルトは音楽の放射を浴びながら育ったわけです。 また真似の天才を創り上げるのに大いに役に立ったのが、何回も行われた海外旅行です。当時、最も新しい音楽が聴けたのは、イタリアの各地、パリ、ロンドンで、彼はこれらの地を訪れては、様々な音楽に接することができました。

 何事につけ、無からの創造は不可能です。豊かな知識こそ、創造の源泉です。様々な音楽に接して豊かな音楽の泉を蓄えたモーツァルトは、ほんのちょっとした楽想の断片から、素晴らしい旋律をつくり出すことができたのです。模倣や真似がなければ、彼の傑作の多くは存在しなかったでしょう。  しかし、それでも、真似の天才、モーツァルトという見方になじめない方には、米国の哲学者エマソンの次の言葉を紹介します。「真に独創的な人間のみが、他人から借りることを知っている」

 

 我が子の適性を見つけ、素晴らしい環境をつくり計画的に育てていくのが、親の仕事です。教室ではそのお手伝いをさせていただきます。気軽に担当の先生にご相談ください。    ( 建 治 )