何のために勉強するの?
私が中学生の頃、定期試験の前に勉強する気になれずゴロゴロしていると、父がさりげなく『建治は、何のために勉強しているのかな?』と問いかけてきました。私は答えることができず、苦し紛れに『試験でいい点を取るため』と言うと、『いい点を取ったらどうなるの?』と聞きます。『いい高校や大学に入学できる』と答えると『いい大学に入ったらどうするの?』と聞きます。『大学に入ったら、いっぱい遊ぶ!(^o^)』というと笑って『その後は?』と更に聞かれて、一生懸命に考えたのを覚えています。父は自分の考えを言わないで、私の考えを深めるような問いかけばかりをしてくれていました。勉強嫌いな私には必要な問いかけだったのだと思います。
成人して私は父と同じ中学校の教師になりました。そして生徒に『何のために勉強するの?』と問いかけては共にもっともらしい答えを探しました。『自分のため』『自分の将来のため』『自立するため』『能力を伸ばすため』『幸せになるため』『家族のため』………。しかし、何かしっくり来ず、悶々としていました。
ある年の文化祭で私のクラスは8㎜カメラで映画を作ることになりました。一番熱心で中心になったのはO君でした。O君は学校の勉強はできませんでした。宿題はしないし、授業中も上の空で話しを聞いていないので仕方がありません。しかし8㎜カメラと映画づくりに熱中しまいました。私の8㎜カメラは彼の物になりました。文化祭での映画上映は大盛況でした。その後も友人と映画を作り始め、どこから仕入れてきたのか映画の専門用語を使うようになりました。そしてある時、次の映画の脚本ができたと言って見せてくれました。不思議な現象が起こったり、恐竜が出てきたり、主役の少年の心の葛藤があったり、イギリス人が出てきて英語で話をしたり、社会風刺があったり……。その内容のレベルの高さに、彼が本当に書いたのか不思議な気がしました。O君はいろんな映画や台本の資料を探し、読み、研究し、実祭に仲間と共に映画作りを始めました。この頃から学校の授業にも集中し、成績がぐんぐん上がってきました。彼に何のために勉強をするのかと聞くと、『映画づくりに必要だから、もっといい作品をつくりたいから、いろんなことを知りたいから、勉強を始めたら面白いです。』と答えました。その後、O君は学年のリーダーになり、難度の高い普通科高校に進学し、大学は芸術学部に進学し、映画会社に就職して生き生きと仕事をしています。
「何のために勉強するのか?」私の考え違いは、勉強の内容に学校の教科だけを考えていたことでした。勉強は本来、その人の興味に応じて、自分から進んで求めてすることに価値があるのです。勉強は、面白いからする、楽しいからする、もっと知りたいからするものなのです。親・教師の仕事は、子どもが没頭できること、大好きなことを見つけてあげることです。好きなことをするのを応援することです。もっと好きになるように支援することです。あなたはすごいと誉めることです。できるようになったこと、自分で考えたことを教えてあげることです。好きなことを勉強している我が子を抱きしめることです。それが我が子の幸せな自立の基礎になります。
( 建 治 )